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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)6529号 判決 1998年5月28日

原告

中伸夫

被告

小川裕子

主文

一  被告は、原告に対し、金四三八万〇八一二円及び内金三九八万〇八一二円に対する平成六年一月一七日から、内金四〇万円に対する平成九年七月一六日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一二三五万二五二六円及び内金一一二三万二五二六円に対する平成六年一月一七日から、内金一一二万円に対する平成九年七月一六日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告運転の普通貨物自動車と被告運転の普通乗用自動車とが正面衝突した事故につき、原告が、被告に対し、自賠法三条、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成六年一月一七日午後三時頃

場所 大阪府泉南市北野七三〇番地先市道(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(和泉五三ち三六五七)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告

事故車両二 普通貨物自動車(和泉四一つ二三五〇)(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告

態様 被告車両と原告車両とが正面衝突した。

2  被告の責任原因

(一) 被告は、前方左右を注視し、進路の安全を確認しつつ道路の左側部分を進行すべき注意義務があるのにこれを怠った。したがって、被告は、民法七〇九条に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告は、被告車両の保有者であり、自己のために同車両を運行の用に供していた者である。したがって、被告は、自賠法三条に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  傷病の内容及び治療経過

(一) 傷病名

原告は、本件事故により、頭部打撲、右下腿挫創、右膝打撲、右足挫創、両足打撲、右膝蓋骨々折の傷害を負った。

(二) 治療状況

原告は、医療法人聖心会堀病院(以下「堀病院」という。)に左記のとおり入通院した。

平成六年一月一七日から同年四月八日まで入院(八二日間)

平成六年四月九日から平成七年三月七日まで通院(実通院日数二三日)

平成七年三月八日から同年三月一五日まで入院(八日間)

平成七年三月一六日から同年四月八日まで通院(実通院日数四日間)

4  損害額(その一部)

(一) 治療費

被告支払分 三〇〇万五二一〇円

診断書等費用 二万五五九〇円

(二) 入院雑費 一一万七〇〇〇円

5  損害の填補

被告は、原告に対し、本件事故に関して合計三〇〇万五二一〇円を支払った。

二  争点

1  本件事故の態様(原告の過失、被告の過失)

(原告の主張)

原告が原告車両を運転し、時速一〇ないし二〇キロメートルで北から南へ進行中、南から時速四〇ないし五〇キロメートルで北へ進行してきた被告は、左方に気をとられ、自車が道路の右側部分を進行しているのに気づなかいまま漫然前記速度で原告車両前面に飛び出して来たので原告は急停止をし、ハンドルを左へ転把し衝突を回避しようとしたが、被告は急停止やハンドルを左へ転把したりの回避をせず、被告車両前面を原告車両に衝突させた。

(被告の主張)

被告は、本件事故現場交差点手前を南から北に向かって時速約三〇キロメートルで進行中、前方左右を注視し、進路の安全を確認しつつ道路の左側部分を進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、同交差点の左方に気を取られ、前方を十分注視せず、自車が道路の右側部分を進行しているのに気づかないまま漫然前記速度で進行した過失により、折から対向して進行してきた原告車両を前方一二・二メートルに発見し、急制動したが及ばず衝突した。本件事故態様が正面衝突に近いものであること、原告車両が下り坂を下ってきたことに照らすと、原告にも前方注視義務違反、徐行義務違反等の過失があるので、応分の過失相殺をすべきである。

2  損害額

(原告の主張)

(一) 治療費

原告支払分 二万三五三〇円

(二) 付添費 七九万九五〇〇円

(三) 交通費 六万九一二〇円

(四) 休業損害 七三四万七七八六円

(五) 慰謝料 二一五万円

(六) 物損(原告車両) 七〇万円

(七) 弁護士費用 一一二万円

(被告の主張)

否認する。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(乙一3ないし5、検乙三1ないし4、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府泉南市北野七三〇番地先(市道)であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件交差点は、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)に東西方向の道路(以下「交差道路」という。)がほぼ垂直に突き当たるT字型の交差点であり、信号機による交通整理は行われていない。南北道路は、別紙図面の「この地点から昇り」と記されている地点から北に向けて三/一〇〇の昇り勾配となっている。南北道路の幅員は、四・四メートル(本件交差点北側)ないし五・五メートル(本件交差点南側)である。南北道路を北に向けて走行してきた場合、本件交差点における前方、左方の見通しは良くなく、同様に南に向けて走行してきた場合、本件交差点における前方、右方の見通しは良くない。

被告は、平成六年一月一七日午後三時頃、被告車両を運転し、南北道路を南から北に向かって、時速約三〇キロメートルで走行し、別紙図面<1>地点で左方(交差道路の方向)を確認しつつハンドルを右に切って同図面<2>地点まで進行した時、時速約二〇キロメートルで走行していた原告車両(<ア>地点)を発見し、ハンドルを右に切ったまま急ブレーキをかけたが間に合わず、同図面<3>地点において同図面<イ>地点の原告車両に衝突し、同図面<4>地点に停止した。原告車両は同図面<ウ>地点に停止した。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、被告が、南北道路を走行するに際し、進路前方から対向してくる車両の有無・動静に注意すべき義務があるにもかかわらず、これを怠ったまま漫然と南北道路の右側部分を進行した過失のために起きたものであると認められる。

この点、被告は、本件事故態様が正面衝突に近いものであること、原告車両が下り坂を下ってきたことに照らすと、原告にも前方注視義務違反、徐行義務違反等の過失があるので、過失相殺をすべきであると主張する。しかし、前方の注視を欠きつつ道路右側を走行することは極めて危険な行為であり、しかも、原告車両を発見してからも右にハンドルを切り続けていることも不適切な行動という外ないのであって、本件全証拠によっても、被告の過失と対比した場合に、公平の観点から過失相殺を相当とするような原告の過失を基礎づける事実を認めることはできない。

二  争点2について(原告の損害額)

1  損害額(損害の填補分控除前)

(一) 治療費 三〇三万〇八〇〇円

原告が、治療費として、被告支払分三〇〇万五二一〇円、診断書等費用二万五五九〇円を要したことは当事者間に争いはない。右金額の外に、原告支払分として二万三五三〇円を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(二) 入院雑費 一一万七〇〇〇円

右損害につき、当事者間に争いはない。

(三) 付添費 二〇万六五〇〇円

原告は、平成六年一月一七日から同年二月二〇日までの三五日間付添看護を要したと認められるが(甲三〔堀病院堀医師の診断書〕)、その他の期間についてその必要性を認めるに足りる証拠はない。

原告は、右三五日間中の合計一五日間にわたり、職業付添人を付しており、一日あたり七一〇〇円を要したと認められ(甲一五、一六)、その余の二〇日間については、付添人が職業的付添人ではないことから(原告本人)、一日あたり、五〇〇〇円の付添費を認めるのが相当である。

したがって、付添費の合計は、二〇万六五〇〇円となる。

(四) 交通費 四万八六四〇円

原告は、本件事故による傷害により、往復タクシーによる通院を要したとし、往復二五六〇円の通院日数二七日分を交通費として請求する。しかし、後記(五)のとおり、原告は平成六年八月一日からは労働能力がほぼ元どおりに回復したことに照らすと、右時点までの通院に際してはタクシーの利用が相当であったと認められるが、それ以後の通院に際してはこれを必要と認めることはできない。したがって、本件事故以降平成六年七月三一日までの通院一九日分(乙八1)の往復タクシー代の合計四万八六四〇円が交通費として認められる。

(五) 休業損害 一八一万八〇八二円

堀病院堀医師が、原告の要休業状態につき、完全に就労が不能であるのが平成六年五月一六日頃まで、就労不能ではないが、相当程度に労働能力が制限されるのは同年五月一七日頃から同年七月三一日頃まで、労働能力がほぼ元どおりに回復したのは同年八月からと判断していること(乙一〇、弁論の全趣旨)に照らすと、原告の休業期間は平成六年一月一七日(本件事故日)から平成六年七月三一日までであり、そのうち、平成六年一月一七日から平成六年五月一六日までの一二〇日間は完全に就労不能であり、同月一七日から同年七月三一日までの七六日間は平均してその労働能力が五〇パーセント低下した状態であったと認めることができる。

次いで、休業損害算定における基礎収入について検討するに、証拠(甲二一1、2、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、本件事故当時、原告(昭和四五年一〇月二七日生)が有限会社ナカ(以下「ナカ」という。)の取締役であったこと、ナカは原告の父である中章が代表取締役、原告の母である中ミヨ子が取締役を務め、いわゆる同族会社であったこと、ナカの事業種目は建築業(主として建物の基礎工事)と物販業(コンビニエンス・ストア)であり、原告が建築業、その両親が物販業を担当していたこと(なお、会計については建築業、物販業ともに原告の父が担当していた。)、原告の具体的な仕事の内容は、建設機械を操作して地面を掘削し、そこに型枠や金具を運び込み、コンクリートを流し込むための枠を作るというものであったこと、原告の行っている建築業の仕事については、営業回りというものはないこと(仕事の依頼は、知り合いの伝で電話連絡があるだけである。)、原告は右役員報酬として年額六〇〇万円の支払を受けていたこと、原告は一七歳の頃から父とともに建設業の仕事を行うようになったことが認められ、右事実を総合すれば、右役員報酬額の七割(四二〇万円)は原告の労働対価部分であると認められる。

以上を前提として右休業期間中の休業損害を計算すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 4,200,000×120/365+4,200,000×0.5×76/365=1,818,082(一円未満切捨て)

(六) 慰謝料 一三七万円

原告の被った傷害の程度、治療状況等の諸事情を考慮すると、右慰謝料は一三七万円が相当である。

(七) 物損(原告車両) 三九万五〇〇〇円

原告は、原告車両が本件事故により全損したため、時価相当額の三六万五〇〇〇円及びレッカー代・廃車費として三万円の合計三九万五〇〇〇円の損害を被ったと認められる(甲一九、二〇、弁論の全趣旨)。

2  損害額(損害の填補分控除後)

以上掲げた原告の損害額の合計は、六九八万六〇二二円であるところ、被告から原告に対し、本件事故に関して合計三〇〇万五二一〇円が支払われているから(前記のとおり)、これを六九八万六〇二二円から控除すると、三九八万〇八一二円となる。

3  弁護士費用 四〇万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告の弁護士費用は四〇万円をもって相当と認める。なお、原告は、弁護士費用については平成九年七月一六日(訴状送達の日の翌日)から遅延損害金の支払を求めている。

三  結論

以上の次第で、原告の被告に対する請求は、四三八万〇八一二円及び内金三九八万〇八一二円に対する平成六年一月一七日(本件事故日)から内金四〇万円に対する平成九年七月一六日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

別紙図面 交通事故現場見取図

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